HOW TO 講座

知らないということ(メルマガより)

その昔、私の母が若い頃は肌の老化を促進させる化粧品が溢れていました。
今でこそ禁止されましたが、水銀や過酸化水素を配合した化粧品が「色を白くする」という謳い文句で売られ、今と違って全成分表示でもなく、水銀が1.5%も入った化粧品をせっせとお肌に塗りこんでお手入れに励むことが当たり前に行われていました。

水銀は肌の中に入るとメラニンを作る酵素の動きを止め、色を白くします。
また、肌に吸収されない水銀の塊が皮膚に微細な傷をつくることで、皮膚の再生を促し、ピーリング効果によりどんどん新しい皮膚を作りメラニンの排出を促します。

一方、過酸化水素はメラニンを酸化分解することで、効果を発揮します。
メラニンは抗酸化作用を持っているのですが、その能力以上の酸化剤である過酸化水素がお肌の中に入り込み、メラニンを分解するほか、皮脂を酸化したりします。

もちろん、お肌の中には様々な抗酸化物質があるのですが、過酸化水素はそれらをすべて破壊した上でなおかつ酸化して効果を発揮するのです。

当然こんな美容を続けていれば、お肌は白くなりますが、どんどん老化していきます。いまでは、抗酸化が老化防止のキーワードになっていますが、この頃は何も知らない化粧品会社の人間に勧められるがままにせっせとお肌を酸化するケアを実践していくのが当たり前でした。

しばらくこういうケアを行っているとお肌が老化していくことに気づきます。
慌てて美容部員に相談すると「小じわを防ぎ、お肌に栄養を与える」という化粧品を勧められ、それを熱心に使うようになるわけです。

つまり美白化粧品を売れば、肌が老化して、必然に老化防止化粧品が売れるという化粧品会社にとっては実に美味しい商売でした。

水銀入りなんて、知っていたら絶対買わないという方は多いかと思いますが、35年前に禁止されまでは、化粧品に成分表示などありませんでしたし、厚生労働省も「色黒」に対して効果があるということを認めていたので、「色黒を治す」という表示だけで売られていました。

そのため、しみに悩んでいる人は、成分がどんなものが使われているのかも知らずに買っていたのでした。

もちろん、こうしたやり方におかしいと感じる人達もいて、いわゆる自然派化粧品や無添加化粧品という流れを作っていきました。

もっとも自然派化粧品がある程度売れてマーケットを作ると化粧品を売るためには水銀を入れることも躊躇しない企業も「ええ儲け話がある」という具合に彼らもまた参入してきます。
もともとポリシーが無くて、売れるのなら何でも売るのがそういう企業の特徴なので、仕方ないのかもしれません。

ちなみに無添加化粧品や自然派化粧品は、人によってはアレルギーを起こすという容器に表示する必要がある成分を配合しないかもしくは配合量が少ないことを特徴としています。

つまり表示指定成分以外はアレルギーの報告が少ないので、より安全な化粧品を作れるのではという考えに基づいています。(本当にそれが安全かどうかは別にして)

無添加化粧品をつくるときに化粧品屋が一番困るのが、防腐剤です。ほとんどの防腐剤が表示指定成分になっているからです。

化粧品を使っているときに菌が繁殖すると困るので、防腐剤を配合するのですが、無添加化粧品によく使われるのがフェノキシエタノールです。
これは表示指定成分ではないのでよく使われます。
ほかにもフェノキシエタノールには弟分的な成分があって、そちらも使われることもあります。
ノンパラベン、ノンフェノキシエタノールという具合にお客さんに売る込みを図る場合に使われることがあります。(要はどう売り込むかが重要なので)

ただ、1つ気をつけないといけないものにイソプロパノールという成分があります。表示が不要なので入っていてもわかりませんでした。
(現在でも医薬部外品は全成分の対象外なので入っていてもわかりません)

イソプロパノールはエタノールと似た成分で殺菌力が強くて防腐剤としても使われますが、こちらは皮膚から吸収されて毒性も強いので、労働安全衛生法(有機溶剤中毒予防規則)で規制されています。

労働安全衛生法は毒性の強い化学物質から労働者を守るための法律ですが、イソプロパノールは毒性が強いため、指定物質となり5%以上配合されている製品を取り扱う場合には皮膚につかないように注意して取り扱い、大量に扱う場合は年に2度健康診断を受ける義務があります。

つまりばかみたいな話ですが、無添加化粧品の中にはパラベンを配合していないから安全ですよといいながら、イソプロパノールを防腐剤として配合した上で作られているものもあるのです。

一方、お客さんは、そんなことも知らずに無添加だからというわけで、心から安心してせっせとスキンケアに励みます。

もちろん労働安全衛生法は大量のイソプロパノールを扱う労働者を健康被害から守るための法律で、化粧品に含まれる量とは比較になりませんが、無防備にバシャバシャと化粧水を使うお客さんと、イソプロパノールが体につかないように防御しながら化粧品を作る労働者、どちらもお気の毒としか思えません。

ちなみにイソプロパノールは無添加化粧品でなくても、安い化粧品原料に溶剤として使われていることが多いので、安物の原料をかき集めて作った化粧品にも配合されています。

化粧品の原料には少し暖めても固体のままのものがあり、そういうものを使いやすくするために溶剤としてイソプロパノールを使い、少し加熱すれば液体になるようにしています。
大量に化粧品を製造する場合はコスト削減になりますので、あえてイソプロパノールを使用した原料を使うわけです。

チープな化粧品ならともかく、安全性がどうのといっている化粧品ブランドにイソプロパノールが使われていたら、会社の姿勢を疑ったほうがよいですね。厚生労働省が法律を制定してまで、労働者を守らないといけない規制物質を化粧品に使うのは、誰が考えてもおかしいと思いませんか?